「クオリアはどこからくるのか?」(岩波科学ライブラリ 12月16日発売 の「目次」と「はじめに」

岩波のウェブサイトにも、amazonのサイトにも中身をチェックできそうな情報が無い。これじゃぁ誰も本の予約なんてしてくれないだろうと思うので、目次と「はじめに」をこのブログで載せます。誰か、これ読んで予約してくれることを願う!

「遂に! アマゾンで予約ができるようになりました。(本バージョンのみ。電子バージョンは数カ月後に available になるとのこと!) 興味がありそうな方に広めていただけると嬉しいです。脳と意識に興味がある高校生以上から読める内容になっています。」

とTweetしたのはいいけど、岩波のウェブサイトにも、amazonのサイトにも中身をチェックできそうな情報が無い。これじゃぁ誰も本の予約なんてしてくれないだろうと思うので、「目次」と「はじめに」をこのブログで載せます。誰か、これ読んで予約してくれることを願う!

  1. 目次
  2. はじめに

目次

1章 意識って科学の対象なの? クオリアって何? …………….1

意識の問題は面白い!?/クオリアって一体何?/意識を研究するとはどういうことか?/意識研究のインパクト/意識の研究の難しさ/動物・植物・ロボットに意識はあるのか?

2章 意識はどうすれば研究できるのか? …………………………17

意識やクオリアにはどういう特徴がある?/これまでのアプローチ—心理物理学と脳科学/脳に損傷を受けると私たちの意識やクオリアはどうなるの?/患者の報告・行動・脳活動—すべて がそろった総合的な証拠が最強/盲視患者の詳しい研究/行動や脳活動で明らかになる盲視の証拠/サルも盲視を経験するなんてことがある?/サルが盲視であると証明できるか?/無意識と意識を区別する方法なんてある?

3章 目から脳へ、脳から視覚意識へ …………………………….35

目の構造はどのように視覚意識をカタチづけるのか?/網膜で受けた光の情報はどのように脳に伝わるのか?/ニューロンの守備範囲—「受容野」とは?/目からの情報を受け取る脳部位—一次視覚野(V1)とは?

4章 意識の変化に合わせて変わる脳活動 …………………………43

意識に伴って変わる神経活動(NCC)とは何か?/NCCを見つけるためのパワフルな実験—両眼視野闘争/サルでの両眼視野闘争の研究

5章 意識と注意 …………………………………………………… 51

注意とは何か?/意識と注意はどう違う? それとも同じ?/意識と注意は別々に操作できるか?/意識と注意は違うなんていう証拠はあるの?/注意のことを考えた上で、もう一度問い直す—クオリアって何もの?

6章 意識の統合情報理論 …………………………………………63

意識の理論は必要か?/意識の理論があると何が嬉しいの?/統合情報理論/統合情報理論が重要視する意識の5つの特徴/意識の情報性/意識の統合性/統合情報量とは何か?/意識の排他性/統合情報理論に基づく意識メーター/意識レベルの計測/統合情報量の計算は可能か?/統合情報理論によって脳に損傷を受けた患者の意識を説明できる?/意識の境界は計算できるのか?/分断脳患者の意識と行動/統合情報理論は分断脳患者をどう説明するか?

7章 意識研究の最前線 …………………………………………….107

統合情報理論はクオリア問題にどう答えるの?/これまでのアプローチの限界とそれを乗り越える新しいパラダイムとは?/クオリア構造と情報構造の関係性を明らかにする!/情報構造は抽出きるのか?/クオリア構造を明らかにするために、大規模にクオリア同士の「関係性」を測る!/クオリア構造アプローチで、私とあなたの青クオリアは同じかどうかわかるか?/クオリア構造と情報構造の関係性を明らかにする利点/視覚と聴覚のつなぎ変え実験/意識研究と社会の関わり

おわりに 133 

参考文献

はじめに

私の見ている「青」はあなたの見ている「青」と同じか? 違うのか? 違うとしたらどう違う のか?

このような疑問を読者のみなさんは持ったことがあるでしょうか? 本書では色の感覚意識のこ とを色のクオリアと呼びます。色のクオリアは脳から生み出されている(はずだ)、ということをみ なさんがもしご存じならば、このような疑問は、脳が色のクオリアを生み出す仕組みさえわかれば 解決できる単純な問題なのではないか、と思うでしょう。

ここでは色のクオリアを例にとりましたが、「青」という色のクオリアを、五感感覚(視覚・聴 覚・触覚・味覚・嗅覚)のどんな感覚や、痛み・感情・思考などのクオリアに置き換えても本質的 には同じ疑問が生じます。つまり、あるクオリアに関して、私とあなたが同じように感じているの でしょうか?

実はこの問題は科学に残されている最大の謎の一つ、脳から「意識」が生まれる仕組みに関わっ ており、今のところの科学ではきちんとした説明ができないのです。

意識が脳から生じる仕組みが科学で説明できない、と聞くと不思議に思う読者もいるかもしれません。宇宙が生じた仕組みや、生命が生じた仕組みが説明できない、という話なら聞いたことはあるが、それに比べれば、「意識は脳から生じているんだから、脳と意識の関係性さえわかればいいんでしょう?」「脳についてはたくさんの科学者が研究しているらしいから、そのうちその謎も解けるのでは?」と思う読者もおられるかもしれません。ところが、脳と意識の関係性は、脳の仕組みだけに注目するような研究を進めれば進めるほどに謎が深まるばかりなのです。別の言葉で言えば、脳のさまざまな部位、そしてそれをつくっている神経細胞の集団、それぞれの細胞の特徴、さらに分子、原子と研究対象を変えても、今のところ、どこにも脳から意識が生じる仕組みは見つかっていないのです。脳と意識の関係性の問題は、科学で立ち向かうことができないタイプの問題なのだ、と割り切って、この根源的で哲学的な疑問は引退してからゆっくり考えよう、と諦めてしまう研究者は少なくありません。

本書では、意識が脳から生じてくる仕組みを考えていく中で、最終的には、あるクオリアを私とあなたがどのくらい同じに感じているかを明らかにするために必要な研究手法も紹介していきます。現在、この新しい研究手法の開発を、科学研究費助成事業学術変革領域研究B「クオリア構造と脳活動から得られる情報構造の関係性理解」としてサポートをいただきながら共同研究者の山田真希子さん、大泉匡史さんと進めています。この試みがうまくいくかどうかを見届けるには、数十年の年月がかかるかもしれません。しかし、意識の起源の問題は、人間が有史以来考えてきた問題で、現在まで解決されていない大きな問題です。そのような問題にブレイクスルーが起こせるとしたら、非常にエキサイティングなのではないでしょうか?

私は、我々意識研究者が今抱いているこの興奮を、次世代の研究者に伝えたいと願って本書を執筆しています。また、意識研究など難しそうだと思う一般の方にも研究について、そしてその面白さを知っていただきたいです。それだけでなく、他の分野の研究者の方にも問題やアイデアを共有してもらい、将来的に何らかの共同研究や事業ができればいいなと考えています。そのため、できる限りわかりやすく、詳細は省き、大きなメッセージを伝えることを目標にして書き進めたいと思います。さまざまな結果について単純化しすぎとか、バイアスがかかっているといった部分もあるかもしれません。今後明らかな間違いが見つかれば修正をしていくつもりですので、ご指摘お願いします。

読者のみなさんの中には、私が過去に翻訳した『意識の探求』や『意識をめぐる冒険』をすでに読んだことがある方や、他にも私が勧める代表的な意識研究本である『脳のなかの幽霊』や『意識はいつ生まれるのか』などを読んだという方もおられるでしょう。そのような方や、とりあえずこの本にしか書いていないことだけをつかみたい、という方は、最後の章をまず読んでください。私が最も力を込めて書いた、一番読んで欲しい章です! ただ、最後の章を理解するには、その前の章を読む必要があるかもしれません。

前置きはこれでおしまいです。では、意識・クオリアの問題とそこへのアプローチについて、見ていきましょう!

Can science deal with a one-shot experience? Do we need repeatability for all forms of science?

Is there any “replicable” and “repeatable” phenomenon? Including everything in the universe. Isn’t any state of the world slightly different always? Isn’t any conscious experience always different in some aspect? Aren’t we ignoring lots of differences to regard something as the same? Isn’t cosmology dealing with the one-shot experience of the universe?

On Nov 4 20201, Hayato Saigo & Johanness Kleiner participated in our Consciousness Talks. It was the first Consciousness Talks from a mathematical angle. I greatly enjoyed it! (Next one is on Nov 16 by Matteo Grasso & Steve Phillips).

Towards the end, I argued that science has to deal with one-shot experiences. I didn’t have time to elaborate on this idea there, so here it is.

What did I mean by one-shot experiences?

This was in response to what Johannes brought up to his argument: “private language proper”. (I’m not 100% sure if I am correctly interpreting what he means. I’m also unsure about the usage in Austen Clark’s book. Or the usage by Wittgenstein.)

Johanness’s slide defines “private language proper” as “Terms that have a reference only a for a single individual”. And this was “<=>” with the following statements. “We cannot refer to individual elements of E in theories or experiments on consciousness”. “A fundamental limitation for consciousness science!”

I am not sure how representative this idea is in consciousness research. Potentially an interesting question to ask in a survey for researchers or philosophers in the future. Like these surveys.

I have a strong doubt about the assumptions underlying these statements. I argue that consciousness research has progressed largely because of case studies. Case studies of unique brain damages and its associated changes in phenomenology. Case studies of verbal reports and behaviors that revealed striking links between consciousness and the brain. My favorite book by Ramachandran is full of such examples. https://www.amazon.com/Phantoms-Brain-Probing-Mysteries-Human/dp/0688172172. I elaborated this point in my book (Japanese only). It’s not only historical. It’s also still the biggest and most important source of the evidence. More detailed clinical case studies will be even more critical. (Recent 7T fMRI studies show amazing level of columnar individual differences, a post for another day).

What about individual differences with those who do not share the experiences with others? Synaesthesia, aphantasia, and so on and on and on? (Aphantasia is only recently recognized!)

In fact, color sciences would not have evolved to the current status if there was no science of color blind people… I often wonder how we came to discover people with colorblindness in the first place!

Consciousness science has to deal with experiences that are unique to “a single individual”. And it gains much from such studies.

Statements like Johanness’s may be coming from some notions of what science should be. In some view, science has to deal with something that is repeatable and replicable. Perhaps, this may originate from a view by Galileo etc.

But I disagree with this broader notion as well. This also leads to an even more fundamental question, which I didn’t have time to elaborate on.

Is there any “replicable” and “repeatable” phenomenon? Including everything in the universe. Isn’t any state of the world slightly different always? Isn’t any conscious experience always different in some aspect? Aren’t we ignoring lots of differences to regard something as the same? Isn’t cosmology dealing with the one-shot experience of the universe?

A theory is great if it explains something that other theories can’t. A theory is even useful if it makes useful predictions. But all predictions that the theory makes do not have to be testable. On the last point, we have elaborated in this paper.

8月の池上高志さん・石黒浩さんとの意識対談と自然変換について考えた

8月に突然、2回Youtubeライブで東大の池上高志さん https://youtu.be/KkQqwiFW8p4 と、阪大・ATRの石黒浩 さんhttps://youtu.be/Y6Pyns3O1vg と対談をさせてもらう機会に恵まれた。あれから2ヶ月ちょっとで両方とも500回以上再生されている。

お二人とは前にも話したことあったが、今回は、私が圏論の米田の補題の世界観をもって話したから話が深まった気がする。(米田ペーパー日本語版英語版

対談の前に、池上さんと石黒さんの共著「人間と機械のあいだ」を読んで準備したのも良かったのだろう。本を読んでいたときにとっていたノートを今見返してみると、池上さんの人工生命とか、石黒さんのロボットとか、普段相手にしている「意識と脳の関係性」というテーマから離れているからこそ見えてくる「共通の構造」的なものに反応していることに気付いた。

この違うものの間の共通性、というのは圏論でいう「自然変換 / natural transformation」に通じるものがある。よく、圏論を振りかざしている人はカッコつけてるだけで中身がない、と言うことをいう人がいる。だが、この自然変換・natural transformation という概念こそは、圏論によってはじめてちゃんと定式化されたものだ。圏論を学び始めた当初、西郷さんに繰り返し、「自然変換が大事」と言われ続けたが、腑に落ちるまでは時間がかかった。それほど、私にとって新しい概念だったのだと思う。

この自然変換的な視点を持ったおかげで、分野横断型・異分野協働・異分野融合の研究の必要性・利点を、おぼろげながら形式化できそうな気がしている。(この辺は11月18日にArayaのHiroHamadaさんとやる意識ラジオで話すことになると思う。)

自然変換を理解することで、「共通構造」を見つけるセンスが磨かれるのでは無いか? ただし、後で説明するように、アナロジー・メタファーを感じるセンスは、ほとんどすべての人がもとから持っている。

「人工生命A とロボットR と人間H が X という共通構造を持つ」とはどういうことか? たとえば、Xを視覚、としてみる。Aのなかでの視覚の決まり、プロパティ、機能などなどをまとめ上げて作り上げる Aの視覚の圏を想定する。「圏(けん)」についてのイントロは色んな本か、私が西郷さんと書いたものを参照してください(後者は意識研究者向けに書いたのでやさしいはず)。今はグラフみたいなものと考えてもらっていいです。そしてそれがRの視覚カテゴリやHの視覚カテゴリに構造を壊すことなく写せるとしよう。

これのお互いの構造を壊すことなく写せる、というのが、A,R,Hの視覚の間になんらかの「関手(かんしゅ), functor」がある、という状況だ。(関手についても西郷さんと書いたものを参照)。以下はFig3 from Tsuchiha & Saigo 2021

そしてそういう異なった関手の間に共通する法則性というか、翻訳の決まり、みたいなメタなレベルでの共通構造がある時、それが 「視覚」というレベルにおける「自然変換」がある、という状況だ。以下はFig5 from Tsuchiha & Saigo 2021

ただし、ここまでだけだと、なんだ、アナロジー・メタファーとどう違うんだ?という話になる。圏論とかいってカッコつけんな、的な。

しかし、ここからが最初、私の腑に落ちなかった話しになってくる。

自然変換は、ただのアナロジー・メタファーではない。「自然」だとみなせるのはどういうとき、というのがきっちり数学的に定義されている。関手が移した先の圏の間における関係性(=arrow, 射)の集合としてCoherentになっていなければならない。tA, tB, …. というのが上のFig 5における射の集合、自然変換になっている。この縛りがキツイ。きついがガチガチというわけではない。というのも、もともとの圏における関係性として本当にA,R,Hが「自然」と似ているんであれば、そこは当然満たされるべき条件だからだ。

そして、圏論のすごいところは、圏、関手、自然変換とメタレベルが上がりつづけるように思えるが、自然変換のレベルで一回、圏における射の集合というレベルに話が落ち着くところだ。これは味わい深い。

我々の論文では、自然変換が成り立っている可能性が高い例として、視野のどこにも写せるような共通の構造を挙げている。右視野だろうと、左視野だろうと、中心窩(Fovea)だろうと、周辺視野だろうと、写せるそういう構造。移した後にローカルな関係性が保たれるような辻褄があうような「自然な関係性」。

で、ここまで考え抜くと、そんなに簡単にA,R,Hの間に自然変換は見つからないだろうということがわかる。

ロボット・人工生命・人間の違いに目を向けるのは簡単だ。何が同じか、同じものを作るにはどうしたらいいか、を考えるのは難しい。

最終的には意識の研究をしたいが…

たまに、学生(とくに大学生)から、「最終的には意識の研究をしたいが、今はとりあえず分子生物学、とか、機械学習を博士課程ではやりたいと考えているがどう思うか?」的な質問を受ける(日本でもオーストラリアでも)。(こういうのはなぜかシンクロして数人から同時に聞かれる)

分子とか機械学習の研究やるのは良いが、自分のゴールを見失わないようにした方がいい。私の知り合いに、学生の頃から意識をやりたくて研究者になったが、それ以外の研究で成果を出して、その後はそのフォローアップに研究人生を費やした人がいる。

で、引退直前にある学会で、「ああ、俺はこういうのがやりたかったんだ!」と思い出した。このままじゃ死にきれない、とそこから舵を取り直し、ラボの方向性を完全に変更して意識研究。今は幸せそう。

死ぬ前の5大後悔にも通じる話。https://theguardian.com/lifeandstyle/2012/feb/01/top-five-regrets-of-the-dying… 本当に自分がやりたいこと、そしてそれが自分の強み・得意なことなのか、真剣に考えぬいてから始めた方がいい。当たり前の話しで外でもよく言われていることだけど。

というTweetをしたらある程度反響があったのでブログに載せてみた。

後に、「とりあえず」でやっているわけではない、色々と考えがあってやってます、というリプライをもらった。考えがあってやってんだったら、なんで私の意見を聞きたいのかよくわからない。。。

ただ、このリプライした後で、「科学的な適職」By 鈴木祐 に出会い、まだちゃんと読んでないが、上のアドバイスは今後良くない部分も含んでイそうだなぁと思う部分もあるので、また後日Tweetなり、ブログなどで考えを書きます。

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